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固定残業代制度導入の注意点

固定残業代制度導入の注意点

最近、未払い残業代の請求が増えていることを受けて、固定残業制度を導入する会社が増えています。そこで、今回は固定残業制度の概要、制度導入の際の注意点について、解説をしたいと思います。

固定残業制度とは

固定残業制度とは、企業が一定時間の残業を想定し、あらかじめ月給に残業代を固定で加え、残業時間が一定部分を超えない限りは、その残業代のみとする制度です。一般的には「みなし残業」とも言われています。ここで注意していただきたいことは、固定残業制度は、法律で明記されたものではないということです。法律に要件が明記されたものではなく、過去の裁判例で事例が積み上がっているに過ぎません。そのため、過去の裁判例から、おおむねこれらの要件を備えていれば大丈夫だろうというものを考えることはできますが、完璧ではないということを知っておいていただきたいと思います。

固定残業制度の裁判例

固定残業制度に関する裁判例は数多くあります。今回はその中の一つ、「ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件」(札幌高裁平成24年10月19日判決)を紹介したいと思います。

[事案の概要]
舞台はホテルで、原告となった従業員はそのホテルでフレンチの料理人として勤務していました。ある時、会社から当初の給与から減額された労働条件を提示され「ああわかりました。」と従業員は返答し、実際に減額されました。その約1年後、、改めて「労働条件確認書」を会社が提示し従業員は署名しました。
ところが、従業員は、退職後に「賃金減額の無効」と「残業代の未払い」を主張して裁判になりました。
会社側は、口頭で賃金減額の合意があったと主張し、残業代については「職務手当」として毎月95時間分の残業代を固定残業代として支払っていたと主張した。

[結果]
裁判所は、賃金の減額は「労働条件確認書」の締結までが無効、固定残業代については45時間分までを認め、それを超える分について別途支払いを命じました。

判決のポイント

この判決からは、固定残業制度を導入する際の注意点をうかがい知ることができます。裁判所が指摘していたのは、「95時間相当」の残業代が含まれていることを明記していなかったこと、95時間を超えた残業の時間外賃金を支払っていないこと、職務手当の支払いによって時間外労働を義務づけていたことの3点を指摘しています。このことから、固定残業制度を導入する場合には、以下のようなことに留意していただきたいと思います。

固定残業の時間数を明記すること

多くの裁判例で、固定残業の時間数を明記していないと指摘されています。このことから、固定残業手当において予定されている時間外労働の時間数を「○時間相当」と明記しておくことが重要です。明記の仕方は様々ですが、労働条件通知書や給与明細書、就業規則等に固定残業代であること、固定残業の時間数、金額を明記しておくことが有効です。

固定残業手当の予定する時間数を超える残業について追加の残業代を支払うこと

固定残業制度を導入したからといって、残業時間を計算しなくてよいことにはなりません。会社側に労働時間の把握の義務がありますので、しっかりと計算する必要があります。そして、もし想定されていた残業時間を超えた場合、超えた部分については、残業代を支払わねばならないのです。実は、固定残業制度の多くの裁判例で会社が負けているのは、この点です。

固定残業の時間数に注意

今回の裁判では、95時間もの固定残業とされていました。労働基準法の上限として規定されている45時間をはるかに上回る時間です。このような定め方は、同条の趣旨に反することとなりますので、安全配慮義務や公序良俗に反するおそれがあります。ですので、固定残業の時間数は、労働基準法で定められた残業の上限を超えないように設定することが重要です。

以上のように、固定残業制度には種々の注意点があります。導入される際には、しっかりと専門家に相談されることをお勧めいたします。

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