契約書
ここでは、契約書についての基本的な説明とインターネットによる事業を行う際に必須の利用規約について、解説をしたいと思います。
1 契約書
2 利用規約
「契約書って難しいし、滅多なことはないだろうから、そのまま押印しているんだよね」。こんな言葉をよく聞きます。本業で常に忙しい状態であれば、そのようになってしまうのも致し方ない面もあります。
しかし、これは一歩間違えれば大変なことになりかねません。そのことを理解するためには、契約書とは何のためのものか、ということから知っていただきたいと思います。
1 契約書とは
基本的理解
契約書とは取引先との約束の内容を書面にしたものです。もちろん、契約は口頭でも成立しますが(参考記事:口頭でも契約は有効か?)、書面に書かれていなければ、後で「言った」「言わない」の水掛け論になります。細かい部分についてずれが生じることも日常茶飯事です。ですから、当事者同士の認識のズレを防ぐために、書面にするわけです。もし、争いになっても、「契約書にこう書いてありますよ」と言えば、そこは共通認識として争いがなくなるわけです。逆に言いますと、取引先と争いになった場合、仮に口頭で合意ができていても、書面に書かれていなければ、後で「そんなこと言っていないですよ」と言われてしまえば、約束していなかったのと同じことになってしまうわけです。契約書がなくとも、たとえば録音データやメール等が残っていれば、どのような契約内容であったのかを後からたどることは不可能ではありません。ただ、契約書に書いてあった方が明確ですので、重要事項は契約書にしっかりと書いておかれることをお勧めいたします。
そして、不利な条項はなるべく削り、有利な約束は必ず盛り込むことが重要です。これにより、会社を守ることにもなりますし、いざという時の武器にもなります。契約書のチェックはしっかりと行うようにしていただければと思います。
ひな形の落とし穴
「そんなことを言っても、インターネットのひな形を使っているから大丈夫」とおっしゃる方もあります。しかし、ひな形がどのようなものかを知っておいていただく必要があります。
多くのひな形は中立な立場で書かれています。契約を結ぶとき、当事者同士は、大抵お互いに対立する立場に立ちます。売買契約であれば、売主と買主。賃貸借契約であれば貸主と借主。どちらの立場に立つかによって、それぞれの条件について、有利不利があります。
ひな形の条項は、中立の立場であるため、必ずしも自分に有利ではないのです。そのため、そのまま使うのではなく、一つ一つの条項について有利かどうかを考える必要があります。これをしていないと、相手にとって有利なひな形を使ってしまうという笑うに笑えない状態になってしまうこともあるのです(相手としては、「なんだかうちに有利に作ってくれたな、ラッキーと思われるだけで、何も指摘がないでしょう)。
しかも、ひな形においては、条項は一般的なもののみしか盛り込まれていません。これからやろうとしている取引に特有の事情はまったく考慮されていないわけです。口頭で約束した事情も盛り込まれていません。
そのため、いざという時に役立たない契約書になってしまう可能性があるのです。
また、複数のひな形のうち自分に有利な部分だけをつなぎあわせるする人もいますが、それでは、つぎはぎだらけの一貫性のない契約書になってしまって、無効になることもありえますので、注意が必要です。
契約書の締結は交渉段階からはじまっている
以上のように、契約書のチェックをすることが非常に重要であることはおわかりいただけたかと思います。そのため、弁護士等の専門家に依頼することの重要性もご理解いただけたと思います。次の問題は、「いつの段階で」弁護士に依頼するかです。
契約書案ができあがってから弁護士にチェックを依頼される方もあります。しかし、契約締結の最も重要な場面は交渉段階です。交渉段階においてどれだけ自分に有利な条件を引き出すことができるか。そして交渉で得た有利な条件をしっかりと盛り込むことが重要です。
そのため、最も良いのは、交渉段階から弁護士に相談をしておくことです(参考記事:ワンランク上の契約書チェックを)。双方の立場の違いもありますので一概には言えませんが、優先順位を付け、譲れない部分を明確にし、強い態度で交渉に臨み、後日の争いを避けるためにしっかりとした契約書を作りたいものです。
2 利用規約について
利用規約の重要性
「インターネットサービスで成功するために必要なことは何か」、とお聞きした場合、あなたは何と答えるでしょうか。独自性のあるコンテンツやインターフェースが洗練されていること、あるいは効果的な広告戦略などをお考えになるかもしれません。
それでは、「インターネットサービスで成功し続けるために必要なことは何か」とお聞きした場合はどうでしょうか。この場合も、絶えず独自性あるコンテンツを提供することや、その都度の流行に応じた広告戦略などは必要でしょう。しかし、それだけでは、「成功し続ける」ことはできません。
なぜなら、「成功し続ける」ためには、「飽きられない」ことだけでなく、「失敗をしない」ことが必要だからです。利用者が増えてくれば、大量の利用者に対し効率的にサービスを提供する必要があるでしょう。また、万一クレームがあった場合には、そのクレームに対して適切に対応しなくてはなりません。これに失敗し、サービス提供が遅延し、あるいはクレームが拡大すれば、いわゆる「炎上」してサービスの内容自体とは関係のない部分で人気に陰りを生じさせることになりかねません。
そして、この「失敗をしない」ための、転ばぬ先の杖となるのが、利用規約なのです。
以下では、利用規約が、適切に利用することでいかに企業にとって大きなメリットをもたらすものなのかをご説明したいと思います。
利用規約のメリット
利用規約を定めるメリットとして、まずは、大量の利用者との間でのサービス提供契約を効率的に結ぶということが挙げられます。
本来、何らかのサービスを提供する側(企業)と、利用者(顧客)との間における契約は、利用者ごとに個別に決めることができ、またその内容は、法律に違反しない限りは双方が同意すればどのような内容でもよいというのが原則です(これを、契約自由の原則といいます)。
しかし、実際には、大量の利用者一人一人に対し、いちいち契約の内容を個別に話し合って決めるということは不可能です。そのため、全ての利用者との間に共通の契約内容をあらかじめ定めて公表しておき、利用者には、サービス利用開始をもってその内容をよく読み同意したものとみなすことで、大量の利用者との間での契約内容決定の手間を省くことができ、業務の効率化を図ることが出来ます。
次に、利用規約は、クレーム対応の際の話し合いの土台となるという点が挙げられます。
サービスが軌道に乗り、利用者の数が増えてくると、企業としては想定もしていなかった利用方法をする利用者が一定程度出てきます。また、自分が期待していた内容と現実のサービス内容とのギャップを受け入れられず、そのことにクレームをぶつけてくる利用者も少なからず存在します。
その場合に、「ここにこのように書いてあります」と、「説明するための文書」や「よって立つ基準」があると、クレームに対しても適切に、迅速に対応することができるのです。
利用規約を定める際の注意点
このように、利用規約を定めることは、業務の効率化・コストの削減を図り、「成功し続ける」上で大きなメリットがあります。
その上で、先に述べた契約自由の原則や、実際には利用規約をよく読まずにサービスの利用を始めてしまう利用者も多いことからすれば、企業にとって有利な条件をたくさん盛り込んでおいた上で、利用者からのクレームに対しては、「あなたは利用規約を読んで同意しています」と言えばよいのではないか、と思われるかもしれません。
しかし、契約自由の原則は、どのような内容であっても全くの自由というわけではありません。利用者が全く読まずに同意したとしても、そこに利用者にとってあまりにも理不尽な条件があれば、消費者契約法を始めとする法律によって、無効とされる可能性が高いのです(典型的な例として、「本サービスを利用したことで利用者の被った損害につき、当社は一切の責任を負いません」との一方的な免責条項などが挙げられます)。
また、仮に無効とされなかったとしても、企業にとってとにかく有利な条件は、利用者からバッシングの対象となり、そのような利用規約の内容自体が「炎上」の原因になってしまうこととなりかねません。
ここでひとつの実際に会った炎上例をご紹介しましょう。以前、某テレビ局が自社コンテンツとして動画投稿サイトを開設しました。そのサイトは、投稿者が撮影した事件や事故、災害現場の様子やハプニング等の画像・動画を投稿してもらい、そのテレビ局がこれを報道に利用するというものでした。そして、そのサイトでは、「①投稿した動画に関してテレビ局にクレームがあった場合、投稿者がこのクレームを解決する」「②テレビ局に損害があった場合、投稿者がテレビ局に賠償責任を負う」というような内容の利用規約が定められていました。
しかし、この利用規約は、「動画を募集して利用させてもらっているテレビ局が、トラブルの責任を全て投稿者に押し付けようとしている」として、Twitterや匿名掲示板等で炎上し、このサイトは一時閉鎖に追い込まれました。
このような事態を避けるためには、利用規約の作成にあたって、企業は有利な立場を振りかざしすぎず、適度なバランスを追及しなくてはなりません。そして、その際には、提供するサービスの特質を踏まえて利用者の権利や義務を考える必要があります。
先ほどの例でいえば、「利用者の動画を使わせてもらう」というサービスの根本的な特質を踏まえず、まるでテレビ局側に全ての権利があるかのような規約を定めたことが炎上の原因であったと考えられます。
このように、自社が提供するサービスは一体どのような内容なのかを今一度きちんと踏まえた上で、利用者の立場からすれば譲れないポイントはどこなのかということを念頭に置いて規約を作成する必要があります。
3 顧問弁護士の利用を
以上、契約書や利用規約の重要性をご理解いただけたのではないかと思います。早い段階から契約書チェックを依頼するためには、顧問弁護士を用意しておくことをおすすめいたします。顧問弁護士でないと、一回一回の契約書チェックでお金が発生してしまいますし、スポットの依頼では、自社の特殊事情がわからない状態でのチェックとなってしまいます。顧問弁護士であれば、自社の状態を理解し、迅速に対応することが可能ですので、お勧めです。
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