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未払い残業代にご注意

未払い残業代にご注意

知らない間に積み上がる残業代

自動車大手スバルが2015年から17年にかけて、社員3421人に計7億7千万円の残業代を払っていなかったことが、24日わかった。16年に男性社員が過労自殺し、その後の社内調査で昨年1月までに判明した。

先日の新聞報道です。

「スバルでは、残業時間の記録は社員の自己申告だけで、パソコンの使用や出退勤の履歴などとは照合されず、過少申告が常態化していたことがわかった」とのことでした。

 

残業代のおそろしいところは、積み上がると大変な金額になるということです。労働時間の管理をしっかりとしていないと、知らない間に大変な金額になってしまいます。もちろん、2年という時効はあるものの、積み上がれば大変な額です。

 

特に中小企業ですと、労働時間管理や社内規則の整備がなされていないところも多くあります。社長は「これまで問題にならなかったから大丈夫」とよく言われます。ただ、それは問題になっていなかっただけで、問題がないのではないのです。問題が表面化したとき、もはや手遅れとも言える大きなリスクに直面することになります。

 

問題になる前に対処するのが予防法務

トラブルになる前に、相談していただければ、予防が可能です。弁護士費用は、一見すると高く思えますが、それ以上のリスクを回避することができる投資なのです。

特に残業代の場合、以下のような種々の対策が可能です。

 

1 労働時間の把握(労働実態の把握)

2 残業制度の整備(残業許可制度、残業禁止命令の適切な運用)

3 固定残業代制度の導入

 

以下では、それぞれについて解説いたします。

労働時間の把握

まずは何をさておいてもしなければならないのは労働時間の把握です。昔はタイムカードが多かったかと思いますが、最近はクラウド上で管理するソフトも多く販売されています。スマートフォンと連携させるものもあり、管理自体はそれほど難しくなくなってきています。

一方、労働時間を把握していないことは、大変なリスクです。それと言いますのも、労働時間の管理・把握は使用者側の義務とされているので、未払い残業代請求の裁判になった場合、労働者側に残業時間を証明する責任はあるものの、そもそも管理されていないとなると、とても不利な立場になります。

たとえば、以下に示す裁判では、タイムカードがなかったことを会社側に不利な要素として判断されています。

参考裁判例「ゴムノナイキ事件」
平成17年12月1日判決(大阪高等裁判所)
〔事案の概要〕
ゴム製品の販売を業とする会社において、生産管理と納期のデリバリーを行っていた従業員が残業代を請求
〔証拠〕
○タイムカードなし
○従業員の妻のノート(従業員の帰宅が遅いこと~その体調を心配して、30分単位で記載。ほとんどの日が午前0時過ぎ)
〔結論〕
会社側敗訴⇒午後9時までの残業を認めました
○タイムカードがないことについて、タイムカード等による出退勤管理をしていなかったのは、もっぱら会社側の責任によるものであって、これをもって従業員に不利益に扱うべきではない、具体的な終業時刻や従事した勤務の内容が明らかではないことをもって、時間外労働の立証が全くなされていないとして扱うのは相当ではないとしました。
○残業を認識しながら、放置していたという事情もあった事案です。

以上のように、労働時間の管理・把握をすることは残業代対策の第一歩と言えます。

労働時間の管理・把握方法については、厚生労働省のガイドラインもご参照下さい。

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

 

残業制度の整備(残業許可制度、残業禁止命令の適切な運用)

従業員が会社側の知らないところで残業していたとしても、それを黙認していれば、残業が認められてしまいます。そこで重要なのが、残業許可制度を作った上で運用することです。どうしても残業をやめない従業員に対しては残業禁止命令を出すことも検討すべきです。

残業許可制度、残業禁止命令について参考になるのが以下の裁判例です。

○ヒロセ電機事件
平成25年5月22日判決(東京地方裁判所)
〔事案の概要〕
入退館記録表ではなく、時間外勤務命令書による労働時間管理を認め、割増賃金請求等を認めなかった事案
〔証拠〕
○就業規則では、①時間外勤務の指示は会社の指示により、事前に会社の承認を得た場合に限る。②時間外勤務者は所定手続きをもって、事前に所属長の承認を得なければならないとされていました。
○具体的な運用方法としては、当日午後4時頃に時間外勤務命令書を回覧して時間外勤務の希望時間と業務内容を記入させて希望を確認⇒所属長確認⇒必要に応じて時間修正⇒従業員に交付⇒残業実施⇒残業終了後、上記書面の「実時間」欄に記入⇒翌朝所属長が確認、本人了解のもとで確定させて、本人確認欄に押印
〔従業員の主張〕入退館記録の時間が労働時間であると主張しました。
〔裁判所の判断〕
入退館記録の入館時刻から退館時刻までの間、事業場にいたことは認められる。
一般論としては、労働者が事業場にいる時間は特段の事情がない限り、労働に従事していたと推認すべきと考えられる。

しかしながら、①就業規則には明確に時間外勤務は所属長からの命令によって行われるとされている、②実際の運用として、毎日、従業員本人の希望を参考にしながら、時間外勤務異例が出され、時間外労働が把握されている、③業務時間外の会社設備利用が認められており、事業場にいたからといって必ずしも業務に従事しているとは限らない
⇒入館時刻から退館時刻までの時間について、客観的な指揮命令下に置かれた労働時間と推認することができない特段の事情がある

ここで注目すべきなのは、入退館記録の入館時刻から退館時刻までの時間は会社にいたことが認められて、特段の事情がない限り、その時間は労働時間と推認されるということです。

「推認」ですから、これと異なる立証ができれば労働時間とは認められないのですが、有力な証拠がない場合は「推認」のまま認定されてしまうのです。上記の裁判では、就業規則に基づいて残業許可の制度がしっかりと運用されていたことから、入館時刻と退館時刻の間の時間すべてが労働時間とは認められませんでした。

入退館記録を取っている会社であれば、会社にいる時間がすべて労働時間と認められるリスクをしっかりと捉え、それに対して対策をしておくことが重要です。

固定残業代の導入

そして残業代が知らない間に積み上がらないための対策として考えられるのが、固定残業代の制度です。ただ、就業規則等でしっかりと定め、それに基づいた運用がなされていないと、裁判では認められないものなので、注意が必要です。

特に、固定残業代制度の場合、有効と認められなければ、固定残業代として支給されていたものも残業の基礎賃金に組み込まれ、残業代がかえってふくれあがることになりますので、注意が必要です。実際、固定残業代制度が無効と判断され、数百万円の請求が認められた裁判例が複数あります。

こんな裁判例もありました。

○平成27年3月13日判決(東京地方裁判所)
〔事案の概要〕
社会保険労務士を通じて固定残業手当の導入について説明を行った上で雇用契約書に労働者が署名押印したと会社が主張した事例
〔結果〕会社側敗訴

〔裁判所の判断〕
賃金の変更:
基本給35万円+家賃手当3万円
↓↓↓
基本給20万8800円、家賃手当1万5000円、家族手当1万5000円、職務手当11万7000円(時間外固定残業代)、役職手当月額1万1700円(深夜固定残業代)、調整手当1万2500円
⇒その総額に変更はないものの,(a)基本給の額が減じられている点,(b)職務手当及び役職手当が固定残業代の趣旨のものに変更されたことにより,当該時間分の割増賃金を請求することができなくなるほか,基礎となる賃金が減じられることとなる⇒労働条件の切下げに該当する

⇒変更の目的は,基本給を減じ,その減額分を固定残業代とすることによって,残業代計算の基礎となる賃金の額を減ずることに主たる目的があったものと認めるほかないところ,そのような目的自体の合理性や被告が原告に対して前記目的を明確に説明したことを認めるに足りる証拠がない以上,形式的に原告が同意した旨の書証があるとしても,その同意が原告の自由な意思に基づくものと認めるべき客観的に合理的な事情はない。
そうすると,変更はその効力を認めることができないから,原告の賃金(固定給)は,変更時点と同じ,基本給35万円及び家賃手当3万円の合計38万円

この裁判では、固定残業代の制度を導入したものの、賃金の総額が変わらなかったことなどもあって、労働条件の切り下げにあたるために無効とされてしまったのです。ですから、固定残業代の制度を導入する場合は、制度の内容、従業員への説明等をしっかりとやらないと、無効になるリスクが高いのです。

加えて、就業規則の整備、雇用条件通知書への記載、給与明細への明記、固定時間を超過した分の残業代支給など、過去の裁判例で必要とされている要件を満たすことが必要です。ですので、固定残業代の制度導入をされる場合には、専門家に相談するようにお勧めいたします。

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