労働組合との団体交渉
1 労働組合対策の重要性
最近の相談で多いのは、従業員の一人が「ユニオン」、「合同労組」と呼ばれる労働組合に駆け込み、団体交渉の申し入れをされるという場面です。
「団体交渉」と聞くと、それだけでびっくりしてしまう経営者の方もおられます。
ただ、ここで注意していただきたいのは、労働組合の構成員は、経営者より労働法のことをよく知っているということです。ですから、経営者が何も対策をせず、団体交渉を行うと、思わぬ落とし穴にはまってしまうことがあります。無防備に対応することは避けねばなりません。まずは最低限これだけは知っておいていただきたい、という点をお伝えしたいと思います。
2 労働組合から団体交渉があった場合の初動対応
まず、労働組合から組合加入通知書及び団体交渉申入書が届きます。郵送やFAX、直接手渡しなど、様々な方法がありますが、ここで注意が必要なのは、「しっかり受け取ること」です。
なぜか。経営者からすれば、会社内に存在せず、見たこともない団体から、突然「組合加入通知書」と「団体交渉申入書」が渡されるわけです。場合によっては、労働組合からの書面を突き返してしまうかもしれません(そういう対応をした社長もおられました)。でも、突き返してしまうと、この時点で「団体交渉を拒絶した」ことになってしまうのです。そうすると、「不当労働行為」として労働組合法上違法という扱いとなり、かえって問題が悪化してしまいます。
ですから、何はともあれ、まずは「組合加入通知書」と「団体交渉申入書」を受け取って下さい。
次にどうするか。この場ですぐに団体交渉の日時や場所を決める必要はありません。「組合加入通知書と団体交渉申入書をたしかに受領しました。当社も内容を検討した上で、○月○日までに回答させて頂きます。」と答えれば十分です(1週間から10日程度の回答期限が妥当でしょう)。
3 団体交渉の設定
次に、①誰が労働組合に加入したのか、②労働組合の名称、③団体交渉の要求事項を確認しましょう。①で当事者を特定し、②である程度労働組合の属性を判断します。そして、検討すべきは、③何を要求してきているのか、です。その上で団体交渉の場所、日時、出席者を決めます。
場所について、組合側は会社の会議室とか労働組合の建物内を指定してくる場合が多いですが、従う必要はありません。労働組合の建物ですと、相手のペースにはまってしまう可能性もありますし、会社の会議室ですと、他の従業員に影響があります。ですから、外部の貸会議室等の方がよいのではないかと思います。
日時については、要求事項を検討するのに十分な時間をとって設定するとよいでしょう。目安としては、1ヶ月先か、長ければ2ヶ月程度先でも問題ありません。一方、団体交渉の時間については、原則として所定労働時間外(勤務時間外)に設定し、1回当たりの交渉時間は90分から120分程度を目安に考えた方がよいと思います。
勤務時間内に団体交渉を行ってしまうと、勤務中の組合活動を許してしまったと言われかねず、後々悪影響が生じる可能性があります。また、交渉時間についても、120分を超えるとなると疲労等で適切な判断ができなくなってしまう可能性があります。
出席者については、必ずしも社長が出席する必要はありません。ケースバイケースで事情の一番わかっている人が参加するのがベターです。ただ、一人よりは、複数で対応した方が無難です。
4 労働組合への回答書の発送
上記の検討が終わったら、回答書を労働組合に送付します。なお、回答書に要求事項についての反論を記載する必要はありません。むしろ、労働組合法の建前からすれば、要求事項に対しては団体交渉という席上で「協議」を通じて解決を目指すことが必要となるからです。従って、要求事項に対する異論・反論は、団体交渉の席上、口頭で主張するようにした方がよいです。
5 団体交渉開催に向けての段階
上記の回答書を送ると、労働組合から連絡があるはずですから、そこで団体交渉の日時や場所を決めることとなります。それらが決まりましたら、要求事項の検討に入ります。この際、しっかりと事実の調査を行うようにして下さい。就業規則や雇用契約書の確認、社内メールや関係する従業員からの聴取などです。その上で、団体交渉に臨みます。
ここで一つ注意点をお伝えいたします。それは、団体交渉申入書に記載のある「要求事項」については、受け入れなくても不当労働行為にはあたらないということです。労働組合法で求められているのは、団体交渉という「協議の場」を設け、「誠実に協議する」ことです。つまり、要求事項を受け入れなければならないとはなっていないのです。
したがって、事実調査の上で、認められるところは認め、認められないところは徹底的に争うという姿勢でいくことになります。
6 その他の注意点
その他、団体交渉中には組合を嫌悪する発言はしないこと、従業員の組合への加入状況を調査しないこと、団体交渉中の従業員についての配置換えや給与・待遇の変更は慎重にすることに注意して下さい。いずれも不当労働行為として問題を悪化させることになりかねません。
お互いの主張に食い違いがある場合は長期戦になることもありますが、会社での対応が困難と思われた場合は、遠慮無く弁護士に相談することをお勧めいたします。